Steps Ahead 観戦記
Steps Ahead
Live at Mt. Fuji Jazz Festival 2004
Aug. 29. 2004
Set List
1. Beirut
2. Oops
3. Self Portrait
4. Bass Solo
5. Safari
6. Pools
7. EWI Solo
- In A Sentimental Mood
8. Trains
9. Tee Bag
Personnel:
Michael Brecker(Ts.,EWI) Mike Mainieri(Vibraphone) Mike Stern(gt.)
Darryl Jones(B.) Steve Gadd(Ds.) Adam Holzman(Key.)
いやー、ひどい天気でしたねぇ、今年のマウントフジ来場者の皆さま。
私も長年野外コンサートを見て来ましたが、バケツをひっくり返したかのような大雨の中で行われた公演というのは、初めて。防水対策は念入りにと思い、今回は
雨ガッパ+サイクルウエア+メッセンジャーバッグ
―という装備で臨みましたが、サイクルウエアって、速乾性はあっても撥水性はたいしたことなく、着席していると冷たい雨水が裾口から滝のように流れ込んでパンツの中まで滲みる始末。まさに荒行のようなコンサート鑑賞、でした。
それでも、Robbie Dupree たちの AOR Dream Band 、そして Ben E. King らの、オトナの魅力にあふれた熱演に、客席も徐々にヒートアップ。
猛スピードで機材がセッティングされ、バンドメンバーがチェックに顔を出すたびに拍手と歓声(とりわけ、Mike Stern に)が巻き起こる、ちょっと緊張度高い雰囲気で待望のステージ、始まりました。
今回の私の鑑賞記、切り口は2点。
(1)「変わらなかったもの」
…曲目表をご覧頂くと、もう分かり過ぎるぐらい自明、の事ではありますが。
「"Sumo" "Cajun" が抜けた」「 バンド初・中期の曲( "Tee Bag" "Pools" )が加えられた」という違いこそあれ、これはまさに、
ビデオ/DVD "Steps Ahead"(=CD "Live in Tokyo 1986" )の完全再現
―と見て、間違いありません。Michael 師在籍最後期における、とことんまでエレクトリックなサウンドの Steps Ahead 、です。
しかも今回呼び寄せたメンツ、Steps 最初期の伝説を作り上げた Gadd
に加えて、急きょ「当時のサウンドを補完してもらう」と言う目的だけのために、元 Miles Davis Band の Adam Holzman
を召集。おそらくこれは、ドラムスとヴィブラフォンが今回、シンセサイザーをトリガーする機能を使わない( Mainieri はかつて
"Synthi-Vibes" なるシンセサイザー機能付きヴィブラフォンを、そして1986年参加の Steve Smith
もトリガー用にエレクトリック・ドラムスを使っていた)ことから決まったもの、と思われます。
ここまでお膳立てが揃ったら、もうあの世界をやるしかないだろう。
そう期待してオープニングを待ちわびていた所、轟き渡ったのは Michael 師の EWI によるサンプラーのオケ・ヒット音「D」。べ、"Beirut" だ!
あのビデオはテープが擦り切れるまで脳髄に叩き込んだ私、思わず
「キターーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!」
―と絶叫しておりました。
そこからは、
「そう来たら、こんどはこう行くしかないだろう! ……あっ、やっぱりー!」
……の連続。曲進行もソロ回しも、あの名盤をなぞるなぞる。各人のソロの組み立て方まで、ここぞというキメの部分は「あそこの名フレーズ」を意識している、感じ。
中でも一番顕著だったのは Michael 師。近年は独自のハーモニー解釈に基づいた複雑なフレーズに磨きをかける一方で封印していた、80年代の
「ドレミファ順列フラジオ」
「奇数連符シーケンス」
…などの手クセを連発。年季の入った師のファン層からも「おぉ」とどよめきが上がるほど、でした。
ここまでキメキメで安定調和的展開だと、後知恵で素朴な疑問も浮かんで来ます。
「これはほんたうに、ジャズなのだらふか?」
(2)「変わったもの」
ところが、です。"Beirut" の演奏がはじまって5秒後ぐらいから、私は Michael 師の手元の物体に、目が釘付けになりました。
持っている物体は明らかに、これまで師が愛用してきた Akai EWI ではない。むしろ吹き口やキーの造りは1986年公演で使われた Nyle
Steiner (EWI 開発者)自家製の Steinerhorn EWI
に似ているが、管体の「たて笛」部分は半分の長さにぶった切られて横の位置で接着され、パッと見は木製の長方形の箱を持っている感じ。そしてキーが左右対
称に付いているので、構えた感じが和楽器の「笙(しょう)」を吹いているかのよう。こ、これはいったい何だ?
…cobito さんの blog 「日曜日は楽しいドライブ」に も詳説されておりますが、これが本邦初公開、Steiner 氏新開発の "MIDI-EWI" なるMIDIコントローラー・プロトタイプだったのです。もっとも Steiner さん自身はトランペット奏者で、使用するのはもっぱら "MIDI-EVI" のほうなので、サックス奏者向け新型EWI は、Michael 師が世界初のユーザーである、ということらしい。
そして、Michael 師のとなりに鎮座するのは…白いアップルマークの浮き出たノートパソコン1台のみ。そう、これがまさしく、私めが当 Blog 7月2日付けで予言した、
「名古屋の嫁入り・EWI 関連巨大機材を Apple Powerbook G4 1台にまとめる」
…というクールなコンセプトの具現化、だったのです。
このようなシンプルな機材で、1986年当時の EWI のぶっといアナログ・シンセ音を完全再現しているのも驚きですが、さらに驚いたのは師の EWI ソロ。
次々に叩き出されるサンプリング音の種類・長さ・情報量と、どれを取っても前代未聞。1992年の再結成 Brecker Brothers
当時のソロをも超えた、圧倒的な構成になっていました。おそらくこれらのデータはすべて、G4 上で動く Logic Pro のソフト・サンプラー
EXS24 に取り込まれて、次々にトリガーされているのでしょう。
また、演奏中これらの音色を切り替える時、これまでの師であればダンサーよろしく、足元のペダルを忙しく踏み分けていたものですが、今回は師、微動だにせず。音色を切り替えるためのMIDIプログラム切り替え機能も、手元のキーで操作しているものと思われます。
また、機材面の進歩だけでなく、18年の歳月は、メンバー各人をそれぞれの楽器の「巨匠」に変えておりました。なので、先ほど書いた各人のソロの 組み立ても、構成こそ過去をなぞってはおりますが、そこからの展開は当代随一。Gadd の神がかり的なタイム感とフィルイン、Stern の轟音ギター、Michael 師の“ほとんど楽器イジメ”フラジオ&重音奏法など、技の限りを尽くした饗宴には、快哉を叫ばずにいられません。
あと、蛇足ですが、大変わりした所。
Darryl Jones の体型! どこで拾ってきたんだ、あんな太鼓腹! 現在の Hiram Bullock といい勝負ぢゃないかっっ!
1986年ビデオで見せてくれた、ベースラインと共にグルーヴする華麗なステップは、今回ついぞ見ることは出来ませんでした(爆)
結論:
バンドが産声を上げた、伝説の "Smokin' In The PIT" 公演からは25年、そして名作 "Live in Tokyo 1986" を生んだ東京公演からも18年を経過した今。
終わってみると、今回のステージ、過去をなぞるようでいて過去を総括、超越したまさに「奇跡の再来」だったと言える。18年前の伝説のステージを目撃できなかった私でも、これを観られたことで実に満ち足りた気分になりました。
また、これまで純ジャズ志向の方々からは鼻をつままれながらも、
「カッコいい音楽とはこういうことだ!」
―と熱弁をふるってきた私を、Michael 師を初めとするバンドメンバーが
「その通りだ我が愛弟子よ。我々もなかなか気に入っておる」
―と認めてくれた(?)ようで、嬉しかったです。
しかし、ある意味で安定調和的な世界を喜ぶようになった私って、なんだか伝統美に取り付かれて「成駒屋!」などと掛け声ばかりかけてはひんしゅくを買う歌舞伎ファンのよう、でもある。要は、私もオヤジになった、ってことですかねい。
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コメント
最悪の天候の中でも、最高の演奏の様子が伝わってきます。
「かっこいい音楽」かどうか、型にはまったジャンル分けよりも、その音楽を聴いてどう感じるか、心の持ち方が僕も大切だと思います。
投稿: maytum | 2004/09/04 11:00
maytum さん、いらっしゃいませ。
私 RECORD がまず第一に思う音楽のカッコよさとは、
「その音が自分を異次元に連れて行ってくれるかどうか」
―だと思っています。そういう音楽を聴くと、思わず鳥肌が立ちます。
その「鳥肌ファクター」さえあれば、どういうジャンルか、エレクトリックかアンプラグドか、という区分けは、どっちでもいいや、と思いますね。
投稿: RECORD | 2004/09/06 01:16